第一章 雛鳥


 目の前には、壮大な景色が広がっている。

 遠くに見える山々は、削り取られたように荒々しく、足元に広がる地面
は、荒野と呼ぶに相応しい。

(こんな景色、初めて見た)

 日本の緑の美しさを思い出し、その違いに思わずため息をつき、改め
て、ここが日本ではないのだと実感してしまう。

 しかし、それより、遥かに重大な悩みがあった。

「ああ……ラーメンが食べたい……」

 もしくは、ハンバーガーでも、チョコレートでもいい。今すぐ、味が濃くて
美味しいものをお腹いっぱい食べてしまいたい。

 それが無理ならば、せめてこのもやもやした気持ちを大声で叫んでしま
いたいが、それもできない。

 香の背後から、一定の距離を保って着いてきている男がいる。

 あきらめて振り返ると、男は穏やかにニコリと微笑む。
 優しそうな目が印象的な青年だ。

「戻られますか?」

 本当は戻りたくなかったが、他に行くところもないので渋々頷く。

「香様」

 香のことを様付けで呼ぶ男は、名を甘睦(かんぼく)という。

「赤皇(せきこう)が、香様を呼んでおられましたよ」
「え? 早く行かないと……」

 急ごうとすると、甘睦はやんわりと制止する。

「大丈夫ですよ。あいつは昔から大雑把な奴ですからね。
 しかも、香様の気分転換の時間を待てない程、懐の狭い男ではないで
すよ」

 赤皇が一番信頼している男が、笑顔でそういうのならそうに違いない。

 香たちは並んで、ゆっくり帰ることにした。




 少し歩くと、テントが密集している場所にたどり着く。
 そこは決してキャンプ場ではない。

(陣営……なのよね、これ)

 立ち並ぶテントの中には、食料と武器、そして兵士達が生活している。
 香たちが近づくと、待っていましたとばかりに一人の兵士が走りよってき
た。

(甘睦に用事かな?)

 ぼんやりしていると、「お探ししました!」といきなり腕を捕まれる。

「ええ!? 私ですか?」
「周香(しゅうこう)様、お急ぎを! 主立った方々は皆、赤皇の元へ集ま
っております。なんでも光一族(こういちぞく)の斥候(せっこう)が戻ってき
たとかで……」

「それで赤皇が呼んでいたのか! 申し訳ありません、香様」

 甘睦が、深く頭を下げている。

「ええ!? “せっこう”って何ですか!? それ、たぶん私は関係な……」

 香の意思とは関係なく、必死の形相の兵士に強制連行されてしまう。

 兵士は陣営の中をずんずん進み、一番大きな天幕の前に来ると、「周
香様をお連れしました!」と声を張り、そのまま香を中へと押し込む。

「わぁ!?」

 勢い良く突き飛ばされ、その場にベシャリと倒れてしまう。

 静まり返っている中、恐る恐る顔を上げると、複数の刺さるような視線と
ぶつかる。

(うわぁ……)

 居心地の悪さとこけてしまった恥ずかしさを感じながら、出来るだけ周り
を見ないように、端っこに座ると、一番奥に腰をかけている青年があきれ
たように笑う。

「こら、何度言ったら分かる。お前の席は、俺の右だ」

 怒るわけでもなく、むしろ楽しそうに右側の空席をバンバンと叩く男。

(……嫌です)

 半泣きになりながら目だけでそう訴えると、男も負けじと“いいから黙っ
て座っておけ!”と微妙な表情と視線で伝えてくる。

「うううっ」

 しぶしぶ立ち上がると、言われた通りに男の右隣に座る。

 ニッと満足そうな笑みを向けてくる男の名は“赤皇”

 しかし、生き倒れていた香を拾ってくれた時は、彼はまだ“赤皇”ではな
かった。
 その命の恩人は、香の名前を聞き、「青木 香(あおき かおる)」と伝え
ると豪快に笑った。

「俺以外にも“色”を名乗ろうとする馬鹿者がいたとはな。
 しかもこの森のこの場所に落ちているとは!
 だが、お前はやめておけ、“色”は俺が名乗るのだからな。
 そうだな……どうせ名乗るなら周香にでもしておけ」

「しゅうこう…なぜ?」

 そう尋ねると、恩人は笑顔で香の足元を指差した。

「ここには、俺がとても世話になった周老師という賢人が弔われているか
らだ。“周老師の墓の上に落ちていた香”よってお前は周香だ」

 なんていい加減なと思ったが、男は何が嬉しいのが、終始楽しそうに笑
っている。

「これも何かの縁、そうは思わないか?」

 その時の赤皇のまっすぐな瞳と曇りのない笑顔は、今でも鮮明に思い
出すことができる。

 後で分かったことだが、この世界で“色”を名乗っていいのは王のみ。
 王以外の者が色を名乗ることは、国家への反逆を意味する。
 それは、この世で最も重い罪。

 では、“赤皇”と名乗る男は、王なのか?


 答えは“NO”だ。




「さてと」

 赤皇の言葉で我に返る。
 それは、会議の開始の合図にもなった。

 改めて周囲を見渡すと、赤皇と香以外に三人の男がこの場にいる。

 その中でひときわ目立つ大男は、どこかで見たことがあるような気がす
る。

(村にいた人かもしれない)

 赤皇に拾ってもらい、ついこの間まで赤皇が暮らす村でお世話になって
いたのだ。
 お世話になると言っても、部屋に篭もりっきりだったので、村人の顔も良
く覚えていない。

 髭を蓄えたいかつい顔をじっと見つめていると、目があってしまう。

(怒られる!)

 とっさに身を小さくしたが、大男は、何も言わず、代わりに僅かに目を細
めた。その様子が笑いかけたくれたような気がするのは気のせいか。

 赤皇は、三人の中で一番年配の男に声をかけた。

「光領(こうろう)殿、斥候が戻ってきたと聞いたが?」

 白い髭を蓄えた老武将は、ゆっくりと頷く。

「そのご報告は息子の光凌(こうりょう)が致します、凌」

 名を呼ばれ、光領の隣に座っていた青年が軽く会釈し立ち上がる。

「斥候の情報からすると、王都軍は現在布山の山間を通過中です。
 数はおよそ600、指揮をとっているのは采濘という楊州の武将で、下に
李清という白至の弟子がついています」

「???」

 青年の言っていることがまったく理解できない。
 今この場で香が理解したことと言えば、

(あのおじいちゃん武将と、目の怖い男の人親子なんだ……似てない)

 くらいだ。

 息子さんの話はまだ続いていたが、言葉は頭に入ることなく素通りして
ゆく。そして、じわじわと襲ってくる眠気。

(く、さすがにここで寝たら駄目だということくらいは分かる!)

 必死に目をパチパチしていると、また大男と目があった。そして、今度
ははっきりとニヤリと笑う。

(今、笑ってくれたよね?)

 そう思ったが、次の瞬間には、大男は、鋭い目で光領光凌親子を睨み
つけている。

「……結果、このまま逃げ切ることは不可能です。ご決断を」

 光凌の報告が終わったようだ。

 詳しい内容は分からないにしろ、光凌の言葉と、周りの重苦しい空気で
現状が良くないことは香にも分かった。




 ことの始まりは、村が何者かに襲われたことだ。

 村人共々逃げ出し、山を越えたところで、待ち構えていた光一族という
目の前の親子が半ば強引に合流してきた。

(もう、何が何だか分からないよ……)

 以前にそう言うと、「分からなくて良い」と赤皇は言う。
 ただ、「分かりたかったら、教えてやる」とも。





「迎え撃つ」

 そう言った赤皇の言葉で、重苦しい空気は一変する。
 今まで一言も口を挟まなかった大男が口を開いた。

「そりゃ無理な話だぜ。こちらは、ただの村人の集まりだぜ? 女子どもも
混じってやがるしよ」

 光凌が冷たい目で睨んでいるが、大男はまったく気にならないようだ。
光領は、白い髭をなでながら、大男を見る。

「はたして、本当にただの村人ですかな?」

 立派な髭で見えないが、口元は笑っているようだ。

「何が言いたいんだよ、じぃさん」
「貴様!」

 立ち上がった光凌を、光領は視線だけで制止する。

「厳巌(げんがん)とやら、お主の顔、見覚えがあるぞ。
 それだけではない、お主の言う“ただの村人”の中にも
 懐かしい顔ぶれが数名おったわ。
 わしは若いころから先王青皇に仕えて王都にいたが、
 いったいどこで会ったのだろうな」

 その顔は「はて?」ととぼけているものの、口元がにやりと笑っている。
巌厳と呼ばれた大男は、やれやれと首を振った。

「さすがは光州の狼衣(おおかみごろも)。
 穏やかなのは上っ面だけかよ。
 綺麗な衣を剥がしたら狼が頭からガブリってね……。
 あーあー怖い怖い」

「何とでも言うがいい、この反乱には光州の民、
 すべての命がかかっているのでな。
 そちらの村のことは何年もかけて調べに調べつくさせてもらったぞ。
 赤皇は確かに先王の忘れ形見、わしらはそう確信している。
 我らが信用できないのなら、今すぐこの場でこの老いぼれを
 切れ捨ててくださっても構いません」

 最後の言葉は、赤皇に向けられている。

「赤皇って王様なの?」

 香が小声で尋ねると、

「ああ、俺もつい最近まで知らなかったのだが、どうやらそのようだ」

 と、爽やかな笑顔を浮かべる。

「厳巌、実際のところこちらの兵力はどれくらいなのだ?」

 聞かれた厳巌は、思い出すように頭をかく。

「えーあー……そうだなぁ。実践で使えるのは30人くらいだろうな。
 女子どもがいるのは本当だし」

「隠し事はしなくていいぞ。
 光領殿の力なしに我らが生き残るすべはないのだからな」

 赤皇にそう言われると、巌厳は悪びれもせず言葉を付け加える。

「その他にも20人くらいは、斥候専門に育てた奴らがいるぜ。
 ただし、こいつらは戦闘向きじゃない。
 情報収集に長けているやつらだからな」

 光凌が、巌厳の態度に舌うちをする。この二人は相当気が合わないよ
うだ。

「250ですか……」

 光領はそう呟くと再び口を閉じ、変わりに光凌が口を開く。

「250あれば勝つことはできなくとも、地形を利用して負けない戦はできま
す。
 父上と赤皇、そして兵士以外のものをこのまま光州へと向かわせ、残り
の兵で敵を足止めすることが有効です」

「けっ! 無謀なおとり作戦かよ! 
 そんなことのために俺の仲間を死なせる訳にはいかねぇぜ。
 しかも、光一族が本当に仲間なのかも分かったもんじゃねぇ。
 ここは光一族が俺たちを逃がす為に命はって足止めをするべきだ! 
 そうしたらお前らを仲間と認めてやるよ」

 二人の間で激しく飛び散る火花が、香にも見えるようだった。

(……こわい)

 この真剣すぎる空気の中にいても、
 やはりどこか香には関係ないことのように思ってしまう。

 心のどこかには、常に元の世界に帰りたいという気持ちがあるせいかも
しれない。

 それでも、言われるがままに今この場にいるのは、拾ってくれた赤皇に
恩を感じているからといえば聞こえがいいが、他に行く当てがないから
だ。

(私も赤皇のお役に立てればいいとは思うけど)

 平和な国で育った香には、今現在できることは何もない。

 そのことが申し訳なくて、何度も赤皇に謝ったが、その度に「構わん。何
もしなくていい。お前は私の右にいろ」と言われてしまう。

“赤皇の右にいること”

 それがどのような意味を持つのか、未だに分からない。



 意見のぶつかり合いはひとまず終結したようで、辺りは静まり、皆、赤
皇の言葉を待っている。

 赤皇はそれに答えるかのように「ふむ」と、緊張感のない声を出す。

「俺は、光凌殿の意見に賛成だ」

 光凌が勝ち誇り、巌厳が悔しそうにがっくり項垂れる。

「兵士以外の者はこのまま光州へと向かわせよう。
 その際、身の安全のためにそちらの兵士を数人つけていただきたい。
 誰をつけるかは、光領殿にお任せしよう」

 光領が重く頷く。

「ただし、俺と光領殿はここに残って足止めをする」

 光凌が驚き立ち上がり、巌厳が渋い顔をする。

「赤皇、それでは本末転倒です!
 もしお二人の身に何かあったら……」

 その言葉を遮り、赤皇は朗々と語りだす。

「俺はこう考える。
 まず、足止めをしようとしても、目的の俺と高名な光将軍がいなければ、
 別部隊がいると宣言しているようなものだ。
 それなら、人数で勝っている敵は、兵を分断して追いかけてくるだろう」

(分かるような分からないような……)

 皆納得している中、香も分かる振りをして頷いておく。

(ええっと?とりあえず、赤皇がおとりになるってこと?)

 今の状況を簡単に言ってしまえば、王都軍は王を名乗る反逆者の赤皇
を捕らえたいという状況だ。

 しかし、捕らえる為に派遣された光領が、何を思ったのか反逆者側に自
軍を率いて寝返ったのだ。

 そして、今、赤皇を連れて光州の地へと逃げようとしている。

 光州は広大かつ裕福な土地で、その土地を治める光一族は代々王に
使えてきたという立派な家柄。

 しかも軍事力も高いため、いくら王でもそう易々とは攻められない。

(とにかく、光州まで逃げ切ればこちらの勝ち……ということなのかな?)

 まるで何かのゲームのよう。

 香はそう思った。




「腹が減ったな」

 重苦しい空気を漂わせた話し合いは、赤皇ののん気な一言で一時中断
される。
 それぞれ天幕を出て行く中、香も皆に続き外に出ようとすると赤皇に呼
び止められる。

「香」
「はい?」

 香が首を傾げると、赤皇は外に控えていた甘睦を呼んで、昼食の用意
をするように伝える。
 こちらに向ける表情は、どこか深刻だ。

「今の話し合い分かったか?」
「いいえ」

 もちろん分かるはずがない。

 即答すると、「お前には見栄はないのか?」と赤皇。
 何か面白いのか、くくっと笑いをこらえる赤皇に、眉をひそめてしまう。

「だから何度も言っているじゃないですか!
 私はこの世界の人間じゃないんですってば。
 難しい言葉がいっぱい飛び交って何が何やら……。
 地名も分かりませんし、名前も皆さん難しいし……」

 疲れたーと机に突っ伏すと、赤皇は頭をポンポンとなでてくれる。

「すまんな、しかし、お前が私の右に座っていることには意味があるのだ
ぞ」
「へ?嫌がらせかと思っていましたよ」

 そう言い返すと、赤皇はまた笑い出す。

「お前は知らなくて当たり前か。
 そうだな……もし、お前がこれの本当の意味に気がついたときは、
 俺の軍師にでもなってもらおうか」
「嫌ですよ!?」

「即答か!そんなに嫌か?」
「嫌です!絶対なりたくありません、というかなれません!」

 きっぱりはっきり否定すると、それが聞こえたのか甘睦が笑いながら入
って来る。両手には、湯気が立ったスープが二つ。

「また豆汁か」

 赤皇がうんざりした声を出す。
 それを聞いた甘睦は、笑顔のまま豆スープを二つとも香の前に置く。

「香様、赤皇が豆汁を気に入らないようなので、二つともお召し上がり下さ
い」
「えっいいの?ありがとうございます、偉大なる赤皇様」

「こらっちょっお前ら、ああもう食べる食べるって!」

 半ば無理やり香からスープを奪い取る姿に、先ほどの気迫のかけらも
見当たらない。

 さらに幼馴染の甘睦がどこか親しげに赤皇に話しかけてくる。

「あっそうだ!
 赤皇、今後から香様を呼ぶときは理由も話してください。
 私はまたくだらない用事かと思って、香様にご迷惑をかけてしまったで
はありませんか!」

 それは、おそらく香が軍議に遅れてしまったことを言っているのだろう。

 赤皇は話を一通り聞いた後、「……それ、俺のせいか?お前が悪くない
か?」と口を出し、スープを没収されそうになっている。

 簡素な食事を終えると、いつものように香と赤皇は隣り合って座った。
甘睦ものんびりとその場に控えている。

「さて、今日は何を聞きたい?」

 本当に何も知らない香のために、赤皇は暇をみつけては「質問タイム」
を作ってくれる。

「次の話し合いが始まるまでだからな、そんなに時間はないぞ」

 そうせかされ、今日疑問に思ったことを思い出す。
 その手にはシャーペンと「数学」と書かれた使いかけのノート。

 途中までの数字の羅列が続いていたそのノートは、ある時を堺に、びっ
しり漢字が書き込まれるようになった。

 そして、香は少しでも無駄がないようにと思い、線を無視し上から下まで
びっしりと文字で埋め尽くすようにしている。

「赤皇、“セッコウ”って何?
 皆、光一族のセッコウが帰って着たって言ってたけど」

 赤皇は指で机に“斥候”と書く。

 向かい合って座らず、隣同士に座るのは、漢字を理解し易くするためで
もある。

「敵の情報や、戦場となる地形などを調べる兵士のことだ。
 敵のことが何も分かりませんでは話にならないからな。
 何事も情報をより多く掴んだ者が勝利を収める」

 香が頷きながらノートに書き留めると、甘睦も口を開く。

「私達の村にもおりますよ。
 一番優秀なのは李准(りじゅん)ですね」
「リジュンって?」

 香が聞くと、赤皇が机に“李准”と書く。そして、甘睦が「村長の息子で
す」と付け加えてる。

「斥候は普通の兵士が数名で行うこともあるが、
 多くの軍はそれ専門の斥候部隊を作っている。
 なぜなら先ほども言ったが、情報で勝敗が左右されるといっても過言で
はないほど、情報戦は重要だからだ」

「ふーん、忍者みたいなものかな?」
「にんじゃ? それがお前の世界の斥候か?」

「うん…ちょっと違うかもしれないけど、敵地に潜り込んで情報を掴んだり
する職業…だと思う」
「かなり近いな」

 ただし、香の世界の忍びは、全身黒ずくめで、手裏剣という飛び道具を
使ったり、忍術を使えたり、時には暗殺したり……という話は伏せておく。

 なぜなら、赤皇が面白がっていろいろ聞いてくるので、こちらが質問でき
なくなってしまうからだ。
 その時、香はふと軍議中に笑いかけてくれて大男のことを思い出した。

「赤皇、あの怖そうな大きな人は……」

 次の質問をしようとした時、天幕の外から「こ、光領様がお見えです!」
と緊張した声が響く。

 その後に、老武将が一人静かに入って来る。

「少しよろしいですかな?」

 穏やかにそう訊ね、香と甘睦の方に視線をやる。

「ああ、構わない。香、話の続きはまた今度だ」

 赤皇は、甘睦に向かって軽く手を上げると、甘睦は何も言わずに香の
手を引き、外に出るようにうながしてくる。

「さぁ話を聞こうか?」

 天幕を出る寸前に、今までとはまったく違う、相手を威圧するような赤皇
の声だけが香の耳に届いた。





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